興味引く話題提供を ラインケア促進めざし 東京産保センター・講習(2025/1/31)
東京産業保健総合支援センター(尾﨑治夫所長)は1月20日、人事担当者や産業保健スタッフ向けに、「ラインケアを促す社内研修の進め方」をテーマにセミナーを開催した。同センターの松井知子相談員は、「最近のトピックスを紹介することで、ラインケアを行う上司の関心を引くことができる」とし、近年の話題として、新卒者とのコミュニケーションを挙げている。
新型コロナウイルスの影響で、近年の新卒者は対人コミュニケーションの機会が不足していると指摘。「相談しやすい職場づくりが一層求められている」と研修で伝えることで、ラインケアを促せるとした。
補足:
ラインケアとは、企業などの職場において、管理監督者が部下のメンタルヘルス対策を行う取り組みです。部下の様子に気付き、相談や改善措置を行うことで、職場の心理的健康をサポートし、生産性を向上させます。
ラインケアの具体例としては、次のようなものがあります。
部下の様子に気付き、適切に対応する
部下からの相談に応じる
休職後の職場復帰を支援する
業務量を調整する
通院のための時間を確保する
ラインケアを効果的に行うには、日頃から部下との信頼関係を築き、気軽に相談しやすい環境づくりを心がけることが大切です。
厚生労働省は、メンタルヘルスケアを「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」の4つのケアに分類しており、そのうちのひとつがラインケアです。
働く人に増えているメンタル不調のほとんどが「適応障害」。発症しやすい傾向にある人の特徴とは?
厚生労働省が実施した「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)」によると、過去1年間でメンタルヘルス不調により1カ月以上休業、または退職した労働者がいた事業所の割合は、13.5%だったそうです。会社を休むことにためらいを感じてしまう方もいるなか、産業医・心療内科医の薮野淳也先生は「今や休職は、めずらしいことではなくなっている」と話します。そこで今回は、「正しく、適切で、安全な」休み方の例をご紹介します。
さらには全労働者のうちメンタル不調で連続1か月以上休職した労働者の割合、メンタル不調で退職した労働者の割合も調べていて、次のような結果が出ています。
(従業員数:メンタル不調で休職・退職した労働者がいた事業所の割合/休職した労働者の割合/退職した労働者の割合)
・1000人以上:91.2% / 1.0% / 0.2%
・500~999人:86.2% / 1.2% / 0.3%
・300~499人:74.1% / 0.7% / 0.2%
・100~299人:55.3% / 0.6% / 0.2%
・50~99人:28.2% / 0.5% / 0.2%
・30~49人:16.0% / 0.4% / 0.3%
・10~29人:7.5% / 0.3% / 0.2%
500人以上では9割前後の事業所でメンタル不調による1か月以上の休職や退職の労働者がいるわけですから、従業員が多いほど、メンタル不調で休職・退職する人も出てくることが分かります。
そして、全労働者のうち、メンタル不調で1か月以上休職した人の割合は全体では0.6%、メンタル不調で退職した人の割合は0.2%です。合わせると0.8%なので、125人に1人です。
学校でいえば、クラスに1人はいないかもしれないけれど、1学年に1人以上は毎年いるよね、というイメージです。こうした結果は、産業医、主治医としての肌感覚とも合っています。
働く人のメンタル不調は、ほぼ「適応」の障害
働く人に増えているメンタル不調ですが、産業医、主治医としてそうした人たちに数多く接してきた経験から、そのほとんどは「適応障害」だと私は考えています。
適応障害とは、生活のなかで何らかの外的なストレスがあって、3か月から6か月経っても慣れることができず、日常生活に支障をきたすほどの心身の症状が出る病気です。
診察室では、「明確なストレスの原因があって、どうしても慣れることができず、そのストレスのもととなっていることについてずっと考えてしまうような状態です」と説明しています。
分かりやすい一例が、五月病です。
4月に入社して、ゴールデンウィーク頃までは前向きに頑張るものの、新卒や転職の方だと連休が明けた頃から任される仕事が増えたり、メンターから離れて仕事を行うようになったりして仕事の負荷が増えてきますよね。
そうすると、ストレスがたまって、徐々に体調を崩していく……というのが五月病。新しい環境での負荷に慣れることができずに心身の不調が出てくるわけですから、医学的にいえば、まさに適応障害なのです。
適応障害の特徴
適応障害の特徴の一つは、ストレスの原因が明確であること。人によって原因はさまざまですが、明確な原因があって、それに対する過剰な反応が起こっている状態が適応障害なので、ストレスのもとから離れると逆に体調は良くなります。これも、適応障害の特徴です。
ビジネスパーソンの場合、適応障害の原因で多いのは、職場の人間関係、過重労働、仕事のミスマッチです。なかでも特に多いのが、人間関係です。対上司、対同僚のほか、最近ではカスハラ(カスタマーハラスメント)というワードがすっかり定着してしまったほど、顧客からのクレームや言動に悩んでメンタル不調に陥る人も増えています。
一方、転職市場は売り手市場になっているなか、以前に比べると自分の希望する仕事を選びやすくなってきているため、仕事のミスマッチが原因で適応障害になるケースは減っている印象があります。
それでも、入社直後や異動直後、転職したばかりの人が、自分がそれまでやってきたこととは違う仕事を任されたり、新しい企業文化になじめなかったりして心身が疲弊することはよくあるパターンの一つです。
責任感の強い人、相談下手な人は特に注意
【産業医面談の事例】ある社員の方は、自分がまかされているあるプロジェクトのことを考えると泣いてしまうといって、面談の場でもずっと涙を流していました。ただ、泣きながらも「投げ出すわけにはいかないので今は休めません。働きたいです」と繰り返していて、今は休みたくはない、このままプロジェクトをやり遂げたいという意思は明確でした。
人事の方を経由して職場での様子を確認したところ、仕事中に涙が出たことはないという話でしたので、このときには上長にフィードバックして、フォローしてもらうことを条件に一旦様子を見ましょうということになりました。
この方のように、つらくてもギリギリまで頑張ろうとしてしまう方は多いです。
適応障害は誰しもなる可能性のある病気ですが、特に、責任感が強くてまじめな方、周りの人に相談したり助けを求めたりするのが苦手な方がなりやすいように感じます。そうした方は、すべてを自分一人で抱え込んでしまいやすく、自分のキャパシティを超えたときに心のバランスを崩してしまうのです。
また、その人の性格だけではなく、周りの協力を得られにくい職場でも、一人で抱え込みやすく、適応障害を発症しやすい傾向があります。
公開日:2024年12月23日