2026年9月から労基署の残業指導が見直しへ
2026/08/30
労基署の残業指導が見直しへ|「月45時間超」だけでなく健康確保措置を重点確認
厚生労働省は、2026年9月から、特別条項付き36協定を締結している事業場に対する労働基準監督署の指導方針を見直します。 これまで、特別条項付き36協定を締結している事業場に対しても、時間外労働を原則となる月45時間以内に抑えるよう求める指導が行われてきました。 今後は、単に時間外・休日労働の「時間数」だけに着目するのではなく、36協定で定めた健康・福祉確保措置が実際に行われているかを重点的に確認し、状況に応じて必要な指導を行う方向へ見直されます。企業にとって重要な変更ですが、ここで注意したいのは、「残業規制そのものが緩和されるわけではない」という点です。 今回は、2026年9月からの指導方針の見直しと、企業が確認しておきたい実務上のポイントを解説します。
2026年9月から労基署の指導はどう変わる?
今回見直されるのは、労働基準法に定められた時間外労働の上限そのものではなく、労働基準監督署による指導のあり方です。 これまでは、特別条項付き36協定を締結している事業場についても、時間外労働を原則となる月45時間以内に抑えるよう求める指導が行われてきました。 厚生労働省は2026年9月から、時間外・休日労働の時間数のみに着目して指導するのではなく、36協定で労使が定めた健康・福祉確保措置の実施状況を重点的に確認する方針です。 重大・悪質な事案については引き続き厳正に対応する一方、労使の合意に基づいて36協定を締結し、その内容に沿った健康確保措置を実施しているかなど、事業場の実態を踏まえた指導へと見直されます。
「月45時間を超えても問題ない」という意味ではありません
今回のニュースを見て、 「これからは月45時間を超えて残業させても問題ないのでは?」 と思われる方もいるかもしれません。 しかし、これは誤解です。 今回の見直しによって、時間外労働の上限規制そのものが撤廃・緩和されるわけではありません。 36協定による時間外労働は、原則として月45時間・年360時間が上限です。 臨時的な特別の事情があり、労使で特別条項付き36協定を締結した場合には、この原則を超えることができますが、それでも法律上の上限があります。 原則として、特別条項を設ける場合でも、 時間外労働は年720時間以内 時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満 時間外労働と休日労働の合計について、2~6カ月平均がすべて月80時間以内 月45時間を超えることができるのは年6カ月まで といった上限規制を守らなければなりません。 したがって、今回の見直しを「残業規制の緩和」「月45時間ルールの廃止」などと捉えないことが重要です。
これから重要になる「健康・福祉確保措置」とは?
特別条項付き36協定では、限度時間を超えて労働させる場合に、労働者の健康・福祉を確保するための措置を定めます。
具体的には、次のような措置があります。
・医師による面接指導
・深夜業の回数制限
終業から始業までの休息時間(勤務間インターバル)の確保
・代償休日・特別な休暇の付与
・健康診断の実施
・連続した年次有給休暇の取得促進
・心身の健康問題についての相談窓口の設置
・必要に応じた配置転換
産業医等による助言・指導や保健指導
どの措置を定めているかは、各事業場の36協定によって異なります。
今回の見直しを考えるうえで特に重要なのは、「36協定に何を書いたか」だけではなく、「実際にその措置を行っているか」という点です。
「36協定に書いてあるだけ」になっていませんか?
企業では毎年36協定を更新しているものの、健康・福祉確保措置については十分に確認していないケースもあるのではないでしょうか。 たとえば、36協定で「勤務間インターバルを確保する」と定めているにもかかわらず、実際に誰が対象となったのか把握できていない。 あるいは、「医師による面接指導」を措置として定めているものの、対象者が発生した場合に誰がどのような手続きを行うのか決まっていない。 こうした状態では、労基署から実施状況を確認された際に、 「協定には書いてありますが、実際にどのように運用しているか分かりません」 となってしまう可能性があります。 今後は36協定の届出内容だけでなく、実際の社内運用と一致しているかを確認しておくことがより重要になります。
特別条項を使った場合は「実施状況を説明できる状態」に
特別条項を利用した場合には、 誰が、いつ、どの程度の時間外・休日労働を行ったのか。 さらに、 その従業員に対して、36協定で定めた健康・福祉確保措置をいつ、どのように実施したのか。 こうした点を後から確認できるようにしておくことが大切です。 なお、今回の指導方針の見直しによって、健康・福祉確保措置について新たな法定の記録義務が創設されるという意味ではありません。 ただし、労基署から実施状況について確認を受けた場合に説明できるよう、社内で実施状況を確認できる記録を残しておくことが望ましいでしょう。 勤怠システムなどによる労働時間の把握とあわせて、健康確保措置の実施状況についても確認できる仕組みを整えておくことをおすすめします。
「36協定を提出したから大丈夫」ではありません
36協定について注意したいのが、 「労基署へ提出したので、その時間まで残業させても問題ない」 という考え方です。 36協定は、法定労働時間を超える時間外労働や休日労働を行わせるために必要な重要な手続きですが、届出を行えば長時間労働に関する会社の責任がなくなるわけではありません。 使用者には、労働者の安全や健康に配慮し、長時間労働によって健康上の問題が生じないよう適切に労務管理を行うことが求められます。 また、特別条項の利用が恒常化している場合には、 「なぜ毎月のように45時間を超えるのか」 、「特定の従業員に業務が集中していないか」 、「人員配置や業務量を見直せないか」 といった視点から、働き方そのものを見直すことも必要です。
厚労省は36協定の締結支援も強化へ
今回の見直しでは、監督・指導だけでなく、企業への支援も強化されます。 全国の「働き方改革推進支援センター」に、特別条項の締結や柔軟な労働時間制度の活用を支援する専門相談窓口を設けるとされています。 さらに、労働基準監督署の労働時間相談・支援班と同センターが連携し、36協定や特別条項の締結に関するアウトリーチ型の訪問支援も展開される予定です。 特に中小企業では、 「36協定は毎年ほぼ同じ内容で更新している」 というケースも少なくないでしょう。 今回の見直しを機に、自社の実際の働き方と36協定の内容が合っているのかを改めて確認してみることをおすすめします。
企業が今確認しておきたい3つのポイント
今回の指導方針見直しを受け、特別条項付き36協定を締結している企業では、次の3点を確認しておきましょう。
① 36協定の内容を確認する
現在届け出ている36協定について、時間外労働の上限だけを見るのではなく、健康・福祉確保措置として何を定めているのかまで確認しましょう。
② 実際に措置を実施できる仕組みになっているか確認する
協定に記載した措置について、対象者の把握方法、実施担当者、実施時期、社内手続きなどが決まっているかを確認します。
「書いてあるけれど、実際には誰も運用方法を知らない」という状態は避けたいところです。
③ 実施状況を後から確認できるようにする
健康・福祉確保措置を実施した場合には、いつ・誰に・どのような措置を実施したのかを社内で確認できるようにしておくことが大切です。
36協定の内容と実際の運用をセットで管理する意識を持ちましょう。
社労士からのワンポイントアドバイス
今回の見直しで最も注意したいのは、「残業規制が緩くなった」と考えないことです。 変わるのは、法律上の時間外労働の上限ではなく、労基署による指導の重点です。 一方で、健康・福祉確保措置の実施状況が重点的に確認されるのであれば、企業にとっては、 「36協定に何を書いたか」 + 「実際にそのとおり運用しているか」 という両面がこれまで以上に重要になります。 36協定を「毎年作成して労基署へ提出するだけの書類」にせず、実際の労働時間管理や従業員の健康管理につなげていくことが大切です。 特に、特別条項を利用することが多い企業では、9月以降の対応を考えるうえでも、36協定・勤怠管理・健康確保措置の運用を一度セットで点検しておくことをおすすめします。
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