労災保険制度見直しへ研究会 取り巻く環境が変化 厚労省(2025/1/9)
強制適用の範囲など課題
厚生労働省は、女性の労働参加の進展や就労形態の多様化などを背景とした労災保険制度の現代的課題を包括的に検討するため、学識者で構成する「労災保険制度の在り方に関する研究会」(座長=小畑史子京都大学大学院教授)を設置した。保険の適用や給付、保険料徴収などについて、社会・経済の動きを踏まえて見直すべき事項を検討する。このほど開いた第1回会合では、各委員が同制度を巡る問題意識を表明。フリーランスおよび家事使用人の位置付けや、遺族補償給付の男女間格差への対応の検討、保険料率のメリット制の災害防止効果の検証などを求める声が挙がった。
昭和22年に制定された労災保険制度は、社会的ニーズに応じて順次改正が重ねられてきた。平成10年以降の改正には、二次健康診断等給付の創設(同12年改正)、複数就業者の増加を踏まえた通勤災害保護制度の拡充(同17年改正)、船員保険統合による適用対象の拡大(同19年改正)、複数の事業場における2つ以上の業務が要因となって生じる傷病である「複数業務要因災害」に関する保険給付の創設(令和2年改正)などがある。
近年においても女性の労働参加の進展や、副業・兼業者も含めたフリーランスの拡大など就労形態の多様化がみられ、労災保険制度を取り巻く環境が変化し続けている。
同研究会は、こうした状況を踏まえ、現代的な課題を幅広く検討するため、岸本武史労働基準局長が学識者を参集して開催したもの。
第1回会合では、労災保険制度の強制適用の範囲や特別加入制度といった「適用」関連、各給付の要件・内容や給付基礎日額など「給付」関連、年度更新やメリット制など「徴収」関連の3分野について、各委員が問題意識を表明した。
適用関連では、労災保険制度上でフリーランスをどのように位置付けるかについて議論が必要との声が挙がった。「強制適用ではなく、特別加入を促進する方が現実的」といった意見のほか、「労働基準法の適用対象とならない者であっても、完全任意ではなく、強制的な加入が必要かどうか論点になる」、「働く人が働き方にかかわりなく強制適用される制度への抜本的な改革も考えられる」といった意見があった。労基法の適用除外になっている家事使用人の取扱いについても議論すべきとの指摘があった。
給付関連では、遺族補償年金の受給資格が俎上に載せられた。同年金で最優先される受給権者である配偶者について、妻は年齢要件などがないのに対し、夫は60歳以上または一定の障害がある者といった要件が課されている。男女の就業状況が変化するなか、男女で異なる要件を設けていることについて検討が必要といった意見がみられた。
徴収関連では、事業場における労働災害の多寡に応じて一定の範囲内で労災保険料率または保険料を増減させるメリット制に関し、「災害抑止効果の有無に関する検証が行われていない」などの問題意識が示された。
同研究会は月1回程度のペースで開き、今年6~7月をめどに中間報告を取りまとめる予定。