就業規則 別条件で合意成立を認めず 会社の説明一切なく 東京高裁(2025/2/6)
どちらが有利か判断不能
千葉県内の運送会社で働く労働者が残業代の支払いを求めた裁判で、東京高等裁判所(佐々木宗啓裁判長)は、完全歩合制の合意成立を認め、請求をすべて棄却した一審判決を取り消し、同社に230万円の支払いを命じた。同社は就業規則で「賃金は基本給、諸手当、割増賃金」で構成するとし、完全歩合制の規定を設けていなかった。同高裁は就業規則と異なる労働条件成立に当たっては、労働者の同意だけでなく、自由意思に基づく同意と認められる客観的・合理的な理由が必要と指摘。同社は具体的な説明をしておらず、完全歩合制が就業規則の条件より有利なのか不利なのかを判断できなかったとして、合意成立は認められないとした。
労働者は平成30年7月に千葉県内の運送会社と期間の定めのない労働契約を結んだ。同年10月まではライトバン、11月以降はトラックを運転し、貨物の運送業務に従事していたが、令和2年4月18日に退職した。
入社の経緯は先輩の紹介で、採用面接の際、労働者は「フリードライバー」として働き、手取りで30万円の給料が欲しいと希望した。同社代表者は、フリードライバーは完全歩合制の雇用形態で、歩合の内容は運賃の30~70%、未経験者で手取り30万円は難しいと伝えた。労働者は30万円が確保できない点を不満に感じたが、後日、上記の条件を受け入れる旨の意思表示をし、採用が決まった。
同社が平成30年4月に所轄の労働基準監督署に届け出た就業規則と賃金規程は、賃金は①基本給、②諸手当および③割増賃金で構成すると定めている。完全歩合制にかかる規定はなかった。
同社のフリードライバーは、単発の依頼に対応して荷物を集配する業務を行っている。配車と歩合割合は同社代表者が決定していたが、給料明細には月の売上げがいくらで、何%の歩合を適用したのかは記載されていなかった。労働者の月給は多い月で40万円、少ない月で25万円ほどだった。労働者は時間外労働の割増賃金の支払いなどを求める裁判を起こした。
一審の千葉地方裁判所は完全歩合制の合意成立を認め、労働者の請求をすべて棄却した。月給に変動があったにもかかわらず、労働者は疑義を示さなかったと指摘。就業規則が定める条件と完全歩合制を比べると、完全歩合制が必ずしも不利であるとも言い難いとして、合意が無効になるとは認められないとした。
二審の同高裁は一転して、完全歩合制の合意成立を否定し、同社に227万9974円の支払いを命じた。就業規則に定められた労働条件と異なる内容の合意の成立に当たっては、労働者の同意の有無だけでなく、労働者の不利益および程度、同意に至った経緯などに照らし、同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかという観点からも判断されるべきであると強調(最判平28・2・19)。採用の経緯から、労働者が完全歩合制へ同意したことは認めたものの、同社代表者は割増賃金の支給の有無や計算方法などを具体的に説明しておらず、自由意思に基づいて歩合制に同意したといえる合理的理由が客観的に存在するとはいえないとした。
同社は就業規則を従業員に周知していないため、就業規則に定める労働条件は無効と主張した。同高裁は届出制度の趣旨から、就業規則を下回る内容の労働契約を締結しないと労基署に届け出ていながら「労働者への周知を欠くことを理由にその無効を主張することは許されない」と退けている。
技術者に限り再雇用 賃金は定年前と同水準で ホンダ(2025/1/31)
本田技研工業㈱(東京都港区、三部敏宏取締役代表執行役社長)は来年6月から、高い技術・技能を持つ一部の定年退職者に対して、65歳での定年前と同程度の賃金水準で再雇用のオファーができる制度を導入する。
同社は2017年、全従業員を対象に定年年齢を60~65歳の範囲で自ら選択できる制度を採用した。高齢者への就業確保措置としての再雇用制度は導入していない。
新制度の運用によって、注力分野であるソフトウェアやバッテリー関係のエンジニアを確保する考えだ。併せて、役職者(年俸制)の給与・評価体系を複線化する。具体的には、技術領域と、営業などの経営領域に二分。いずれも報酬は役職ランク別の定額制を基本としたうえで、技術領域については、期初に立てた目標の達成度も評価し、年俸に反映する。目標は自身の役割、自発的行動(スキル研鑚など)、組織活性化について、それぞれ立ててもらう。
一方で、経営領域については、完全な脱年功・脱一律の制度とする。各役職に期待される行動と成果を半期ごとに評価し、賞与の支給額に反映させる。
【賃金調査】情報労連 ITエンジニア労働実態調査2024/ITエンジニア 大卒35歳の所定内31.4万円 中高年層で3%超改善(2025/1/30)
年間一時金 「労組あり」は5.27カ月
情報サービス業185社の回答をまとめた情報労連の「ITエンジニアの労働実態調査」によると、大卒の年齢ポイント別賃金は22歳22.2万円、35歳31.4万円、45歳39.2万円、ピークの55歳43.3万円だった。全年齢ポイントで前年比プラスとなり、45歳以上は3.0~3.6%増と顕著に伸びている。各社に最低額、最高額を尋ねて集計した職種別賃金レンジは、システムエンジニアが26.8万~44.3万円、プロジェクトリーダー等が35.5万~51.6万円だった。一時金の平均年間支払い月数は4.24カ月で、労組ありでは5.27カ月となっている。
年齢別所定内賃金
情報労連がIT企業や業界団体に呼び掛けて実施している同調査では、年齢ポイント別の所定内賃金や年間一時金など給与面のほか、労働時間、人材育成の方針なども含めて多角的に尋ねている。2024年調査では185社から有効回答を回収した。うち27.9%が労働組合を有している。
年齢ポイント別所定内賃金は、各社に大卒者の年齢ポイントごとの「平均的な金額」を尋ねて集計したもので、毎月固定的に支払われる諸手当を含んでいる(通勤手当は除く)。22歳の22万2355円に対し、ピークを迎える55歳は43万3360円だった。22歳の水準を100とした場合の55歳の指数は195だった。すべての年齢ポイントで前年比増加しているが、増加率は22~35歳が0.3~1.7%、40歳以上では2.9~5.0%となり、中堅層、高年層の方が伸び幅は大きい。
パート時給80円アップ要求へ 部門別含め方針決定 UAゼンセン・春闘(2025/1/23)
繊維・流通・サービスなどの労働組合が加盟するUAゼンセン(永島智子会長)は、今春闘の方針を決定した。多数の短時間組合員を抱える流通・総合サービスの2部門では、時給ベースで80円、率では7%の引上げを求める。昨年の最低賃金改定に伴う引上げ結果を確認したうえで、別枠で要求するとした。正社員に関しては、全3部門が総額で1万7000円、7%の引上げを基準に掲げた。製造産業部門はこれまで率を基本としてきたが、「格差是正に向けて金額を意識する」とし、要求額を明記した。
UAゼンセンは今春闘の基本姿勢として、「短時間組合員の労働条件改善を加速させる」、「中小組合の賃金水準を底上げし、格差拡大に歯止めをかける取組みを強化する」などを掲げている。パート時給については、本部方針として、ベースアップ60円・5%、総額では80円・7%を目安とした。流通部門と総合サービス部門の方針は、この目安に準ずる形となっている。
流通部門は、要求額を昨年より10円高く設定した。方針決定に先立ち開いた会見で、同部門の桂義樹事務局長は、要求の根拠として、深刻な人手不足への対応などを挙げた。「12年連続で、引上げ額は正社員を上回っている。その流れをしっかり継続していきたい」と話した。方針では、「雇用区分間格差是正が必要な場合はさらに上積みを図る」としている。
正社員組合員については、3部門とも本部方針に沿って、賃金水準が不明、またはミニマム水準に達していない場合の基準を、1万7000円とした。流通部門は昨年に引き続き、「以上」を付けている。
総合サービス部門は、「1人平均7%基準を要求する」としたところまでは昨年と同じだが、要求額については、「少なくとも1万4500円以上を要求」から大幅にアップしている。
製造産業部門は、定昇込み6%、格差是正分として1%程度の要求を基準としたうえで、額として1万7000円をめざす。ミニマム水準を上回っている組合についても、格差是正に向けて金額を意識した上積みを要求する姿勢を明確にした。
西尾多聞書記長は会見の場で、最終的に妥結に至る率が1%程度に留まっている300人未満の組合の現状に触れ、「そうした組合のうち、賃金体系が維持できていない、あるいは水準を把握できていないという組合が6割ぐらいある」と指摘した。賃上げがしやすい環境整備に向けて、経営者との面談、交渉への参加も含めて、加盟単組への個別支援を強化していく。
年末賞与妥結額初の70万円台に 愛知経協・調査(2025/1/22)
愛知県経営者協会(大島卓会長)が取りまとめた2024年の年末賞与交渉状況報告で、妥結平均は初の70万円台となる71万6178円(支給月額=2.45カ月)に上り、過去最高額となった。対前年比は5.64%(3万8429円)増加した。
前年の妥結額を上回った企業は全体の7割を占めている。対前年増加率を業種別にみると、非製造業が3.87%、製造業が6.24%だった。
集計は、昨年12月27日までに妥結を確認した会員企業180社を対象としている。
労使慣行 成立と不利益変更認める 労契法10条に準じて 横浜地裁(2025/1/16)
賞与・入試手当をカット
学校法人桐蔭学園の中・高等部で教員として働く労働者46人が、賞与削減と入試監督手当の廃止を不服とした裁判で、横浜地方裁判所(眞鍋美穂子裁判長)は賞与の算定方法と同手当の支給について、労使慣行と認めつつ、不利益変更を有効と判断した。労使慣行の変更には原則合意が必要だが、常に合意がない限り変更できないのは不合理と指摘。労働契約法第10条に基づく就業規則の変更のほか、就業規則自体を変更しなくても、同条に準じた手続きを講じているときは、不利益変更が許されるとした。同法人は経営悪化を理由に、令和2年度に賞与の乗率を5.45カ月から5.0カ月に引き下げ、年11万6000円の同手当を廃止していた。
46人の労働者は同法人(横浜市青葉区、溝上慎一理事長)の中学校、高校、中等教育学校で教員として勤務している。中・高校と中等教育学校には、教職員で組織する労働組合があり、労働者らは労組の組合員だった。
同法人は平成6年11月24日に総務局長名の通達文書を発出した。同通達には専任教員の賞与の年間支給額を5.25カ月から「(本給×1.05+調整給+扶養手当+管理職・主任手当)×5.45カ月+α」に変更するとの記載があった。同法人は6年12月~令和2年6月まで、上記の算定方法に基づき、休職や懲戒処分事由がない限り、勤務成績などにかかわらず、年2回の賞与を一律に支給してきた。平成7年1月23日には労組との団交の場で、入試監督手当の額を年5万8000円から11万6000円に引き上げると回答し、7年~令和2年まで支給を続けた。
元年11月、文部科学省は同法人の財務状況を調査し、経営基盤の安定確保が必要と判断。集中経営指導法人に指定した。文科省の通知文書には、人件費の高さが経営を圧迫しており、とくに高校と中等教育学校の教員の給与が著しく高いとの指摘があった。同法人は2年度から専任教員の賞与の支給乗率を5.0カ月に引き下げ、同手当を廃止した。非常勤講師・パート職員の賞与についても8.26%削減している。引下げ・廃止に当たって、就業規則の変更などはしていない。
同地裁は専任教員の賞与の算定方法と同手当の支給について、労使慣行の成立を認めつつ、不利益変更を有効とした。給与の減額幅は年収ベースで5~6%に留まり、賞与の乗率も年5.0カ月分が確保されていると指摘。変更には合理性が認められるとした。
労使慣行については、専任教員の賞与と同手当が団交を通じ、一定の年収を確保する観点で決定された経緯を重視した。長期・反復継続的な支給が予定されていたうえ、約25年にわたって一律に支給されてきた実態を踏まえると、民法第92条(任意規定と異なる慣習)による法的効力が認められるとした。一方、非常勤講師の賞与は支給の経緯が明らかでなく、法的効力は認められないとしている。
労使慣行の不利益変更は、使用者側の一方的な意思表示による不利益変更は許されないものの、常に合意がなければ変更できないのは不合理と強調。労契法第10条に基づく就業規則の変更のほか、同条に準じて、変更後の労働条件を周知し、かつ、変更後の労働条件に合理性が認められる場合は、不利益変更が可能になるとした。減額後の平均年収は約927万8000円となお高額であり、隔週での週休2日制導入などの代償措置も講じているとして、不利益の程度がこれを受忍させることが法的に許容できないほど大きいとまではいえないとした。
政府目標受けて要望で最賃言及 日商・東商(2025/1/15)
日本商工会議所と東京商工会議所(小林健会頭)は、雇用・労働政策と多様な人材活躍に関する政府への重点要望を建議した。地域別最低賃金に関して、政府が「全国加重平均1500円」の目標達成時期を前倒しする意向を示したことを受け、例年4月の最賃に関する要望に先立ち、「地方・中小企業の実態を十分踏まえた政府目標の設定」などを求めている。 多様な人材活躍に向けた要望では、昨年7月に実施した調査で中小企業の約6割が外部シニア人材の受入れに前向きだったことを踏まえ、両者のマッチング支援の必要性を強調した。実際の採用ルートとして、「従業員による紹介」が多かったことから、企業の活用を促進すべきとしている。
ユニクロ初任給が+3万円の33万円に 社員の年収も最大11%ほど上昇「世界水準で仕事をする人材を」(2025/1/9)
「賃上げ」が日本経済の大きなテーマであるなか、「ユニクロ」で初任給が3万円アップです。 「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは、現在30万円の初任給を今年3月から33万円に引き上げると発表しました。 また、入社1年から2年目で就任する新人店長も月収を2万円アップの41万円にするなど、社員の年収は最大11%ほど上昇するということです。 「競争力と成長力をさらに高め、世界水準で仕事をする人材を確保したい」としています。
パートタイム・有期雇用 同一賃金推進へ自主点検 訪問支援につなげる 東京働き方改革推進支援センター(2025/1/9)
公平な処遇で定着率向上
東京働き方改革推進支援センター(松村嘉文センター長)は、都内中小企業に対し、パートタイム・有期雇用労働者の同一労働同一賃金推進に向けた働き掛けを強める。都内の業界団体の会員企業に自主点検表を配布し、知識が乏しかったり、取組みが不十分な企業があれば、希望に応じて訪問支援を実施する。人手不足対策の一環として行うもの。「労働者を公平に処遇していればイメージアップにつながり、定着率向上や採用のアピールポイントになる」(松村センター長)と話す。
働き方改革推進支援センターは、厚生労働省の委託事業として、全国47都道府県に設置されている。社会保険労務士などの専門家が、賃金規定の見直しや就業規則の作成方法など、労務管理上の助言を行っている。
東京都の同センターが実施する同一労働同一賃金遵守に向けた働き掛けは、センターの取組み周知のために連携している東京建設業協会や東京都トラック協会など、業界団体の会員企業を対象とする。まずは電話などでパートの有無などの状況を聞き取り、その後自主点検表を配布して具体的な実情を確認する。
点検表では、「パートタイム・有期雇用労働者と正社員との間に待遇差を設けるときは、職務の内容、異動や転勤等の条件の違いについて考慮している」、「正社員と職務の内容、異動や転勤等の条件が同じ場合、待遇差はない」など6問を尋ねる。自主点検の結果を踏まえ、専門家による相談や、訪問コンサルティングにつなげる。たとえば同一の職務内容であるにもかかわらず、パートタイム労働者には現場でのOJTしか行っていなかった場合、正社員と同様の教育訓練を実施するなどと助言する。
同センターに令和6年4月から12月中旬までに寄せられた相談約2500件のうち、1割強の約300件が同一労働同一賃金に関する相談だった。働き掛けにより、年度末に向けて400件の相談支援につなげることを目標とする。松村センター長は、「同一労働同一賃金は、企業にとっては対策が後回しになりがち。センターが主体的に働き掛けることで、待遇見直しを勧奨していきたい」と話している。
三井住友銀行 初任給を30万円に引き上げ 来年4月から(2025/1/7)
メガバンクの一つ、三井住友銀行は来年4月から大学や大学院の新卒初任給を30万円に引き上げる方針を固めたことがわかりました。金融業界では初任給を引き上げる動きが相次いでいて、処遇をよくして人材を獲得しようという競争が一段と激しくなりそうです。
関係者によりますと、三井住友銀行は来年4月に入行する大学や大学院の新卒を対象に、月額の初任給を30万円に引き上げる方針を固めました。
▽大卒はこれまでの25万5000円から4万5000円
▽大学院卒はこれまでの28万円から2万円
それぞれ引き上げます。
初任給の引き上げは2023年4月以来となり、大卒の初任給を30万円台にする方針が明らかになったのはメガバンクでは初めてです。
初任給をめぐっては大和証券グループ本社と岡三証券がそれぞれ30万円に引き上げることを計画していて、学生にとっていわゆる“売り手市場”が続くなか、処遇をよくして人材を獲得しようという競争が一段と激しくなりそうです。