残業は月45時間を超えてもいい? 労基署の「45時間以内」一律指導が9月から見直しへ
2026/08/20
労基署の「45時間以内」一律指導が9月から見直しへ
厚生労働省は、労働基準監督署が企業に対して行ってきた、時間外労働を「月45時間以内」に抑えるよう求める一律の指導について、2026年9月から見直す方針を明らかにしました。 このニュースを見て、 「残業規制が緩和されるの?」 「これからは月45時間を超えて残業させても問題ないの?」 と思われた経営者や人事担当者もいるかもしれません。 しかし、今回の見直しは、時間外労働の上限規制そのものを緩和するものではありません。 変わるのは、主に労働基準監督署による「指導のあり方」です。 今回は、何が変わり、何が変わらないのかを整理してみます。
残業の原則「月45時間・年360時間」は変わらない
まず押さえておきたいのが、時間外労働の上限規制です。 36協定を締結した場合でも、時間外労働は原則として、 月45時間・年360時間 が上限です。 今回の見直しによって、この原則がなくなるわけではありません。 また、「月45時間までは自由に残業させてよい」という意味でもありません。 36協定は、法定労働時間を超えて労働させるために必要となる労使協定です。会社としては、そもそも長時間労働をできるだけ抑えるという基本的な考え方を持つ必要があります。
特別条項があれば45時間を超えることはできる
一方、通常予見することのできない業務量の大幅な増加など、臨時的な特別の事情がある場合には、特別条項付き36協定を締結することで、原則である月45時間を超える時間外労働が認められる場合があります。 ただし、特別条項を設ければ無制限に残業できるわけではありません。 一般的な上限規制では、たとえば、 時間外労働は年720時間以内 、時間外労働と休日労働の合計は単月100時間未満、 時間外労働と休日労働の合計について、2~6カ月平均はいずれも月80時間以内 、月45時間を超えることができるのは年6カ月まで 、といった制限があります。 したがって、 「特別条項があるから毎月60時間残業させる」 といった運用ができる制度ではありません。
今回変わるのは「労基署の一律指導」
では、2026年9月から何が変わるのでしょうか。 報道によると、これまで労働基準監督署では、特別条項によって月45時間を超える時間外労働が可能となっている企業に対しても、月45時間以内に収めるよう一律に指導する運用が行われていました。 この一律の指導を見直します。 背景には、政府が2026年7月に閣議決定した日本成長戦略などがあります。 労働時間や労働者の健康確保措置について、労使の合意に沿った指導が行われるよう見直す方向性が示されていました。 つまり今回の変更は、 「45時間を超えた残業を認めるよう法律を改正する」 というものではなく、 「適法に締結された36協定の内容や労使の合意を踏まえて、行政指導を行う」 という方向への見直しと考える必要があります。
「残業規制が緩和された」と考えるのは危険
今回のニュースで特に注意したいのが、この点です。 「労基署が45時間以内にしろと言わなくなる」 という部分だけを見ると、 「それなら今後は45時間を超えて残業させても大丈夫」 と受け取ってしまう可能性があります。 しかし、それは正確ではありません。 時間外労働について「月45時間・年360時間」が原則であることは変わりません。 特別条項についても、あくまで臨時的な特別の事情がある場合の例外です。 今回の見直しを「長時間労働が自由になる」と捉えるべきではないでしょう。
今後は「健康確保措置」がより重要に
むしろ企業として注目したいのは、こちらです。 見直し後の指導では、企業が36協定で定めている労働者の健康・福祉を確保するための措置が実際に行われているかどうかを重点的に確認する方針とされています。 特別条項付き36協定を締結するときには、限度時間を超えて労働する労働者について、健康・福祉を確保するための措置を定めます。 問題は、 「36協定に何と書いたか」だけではなく、「書いたことを実際にやっているか」 です。 36協定を毎年作成し、労基署へ届け出ること自体が目的になってしまっている会社は注意が必要です。
自社の36協定を一度確認してみてください
経営者や人事担当者の方には、この機会に自社の36協定を取り出して確認することをおすすめします。 特に確認したいのは、特別条項を利用している会社です。 「特別条項を発動するのはどのような場合か」 、「月45時間を超える社員はどのくらいいるのか」 、「45時間超が何カ月続いているのか」、 「健康・福祉確保措置として何を定めているのか」 、「その措置を実際に行った記録が残っているのか」 といった点を確認してみてください。 36協定の届出内容と実際の労務管理が一致しているかを見ることが重要です。
「45時間を超えたか」だけを見る労務管理から一歩先へ
今回の見直しには、もう一つ重要な意味があると思います。 これまでは、 「今月は45時間を超えそうだから残業を減らそう」 というように、「45時間」という数字そのものに意識が集中しがちでした。 もちろん、労働時間を削減することは重要です。 しかし、本来の目的は社員の健康を守りながら適正に働いてもらうことにあります。 同じ40時間の残業でも、業務内容や勤務間隔、休日の取得状況などによって負担は違います。 逆に、一時的に45時間を超えざるを得ない事情が生じた場合には、労使で定めたルールに従うとともに、会社が健康面に十分配慮することが重要になります。 これからは単純に、 「45時間を超えた・超えていない」 だけを見るのではなく、 「なぜ長時間労働が発生しているのか」「社員の健康を守るために会社として何をしているのか」 まで含めて管理していく必要があるでしょう。
まとめ
2026年9月から予定されている今回の見直しは、残業時間の法的な上限規制を緩和するものではありません。 月45時間・年360時間という原則は変わらず、特別条項についても臨時的な特別の事情がある場合の例外という位置付けです。 変わるのは、労働基準監督署が特別条項を締結している企業などに対して行ってきた「月45時間以内」という一律の指導のあり方です。 そして今後、より重要になりそうなのが労使で定めた健康確保措置を実際に実施しているかという点です。 したがって今回のニュースを、 「これからは残業を増やしても大丈夫」 と受け取るのではなく、 「自社の36協定と実際の労働時間管理、健康確保措置がきちんと一致しているかを確認する機会」 と考えるのがよいでしょう。 9月の運用見直しを前に、一度、自社の36協定と長時間労働者への対応を確認してみてはいかがでしょうか。